Story Reader / 本編シナリオ / 28 星灯宿す氷帝 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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28-7 二筋の光

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九龍

11月9日、21:57、現在

夜航船九龍衆本部、地下シェルター

受信端末

……なあ……

ん?

時間が長く感じるな。今何時だ?

あと3分で22時だ

この今日という日……一生のように長く感じる……

おいおい、37歳で一生なんて言えるのか?

まるで73歳の言い草だ

これが往生際ってやつなのかもな――

トンネル内の負傷者収容エリアの中央に置かれた古い端末が、途切れ途切れに鳴っている

立つ者、座っている者、柱に寄りかかる者、遠くからこちらを見ているだけの者もいる

受信端末

歌声は黄昏の水面にそっと漂い……

……夕暮れの遠くに見えるは工場の灯り

汽車は飛ぶように走る……車窓を煌めかせ……

いい歌だな

だろう?若い時に……妻が教えてくれたんだ

九龍の歌ではなさそうだな

わからん……妻が言うには、この歌を教えてくれた人はもう……亡くなったらしい

死んでた方が楽さ……こんなご時世じゃな!嫁さんはいくつだ?

お前と同じだ

冗談はやめろよ。あんた、もうとっくに70を越えてるだろう。それで嫁が37だって?

……はは

続きを歌ってくれよ、なかなかいい歌だ――

多くの人が黙って静かに端末の近くに集まり始めた

軍服の兵士、スーツ姿の政治家、疲れた顔の医師や看護師、汚れた顔の住民たち

そして帰還したばかりのグレイレイヴンとストライクホークもそこにいた

受信端末

……なあ、本当に引き返せなくなったら……痛いよな?

何がだ?

光壁にやられたら……痛いのかな?

痛くないさ

どうしてわかる?

負屓に訊いたんだ。温度がものすごく高くて、何の痛みも感じないんだと

そう話すのを聞いて、外側に立っていた背の高い筋肉質の蒲牢衆はそれ以上は聞きたくないというように、片足を引きずりながら去っていった

受信端末

そうか、ならいい……

痛いのが怖いか?

そりゃ少しは。痛いよりはパッと終わらせてほしいな。兵士なら怖くないのか?

私は……少し怖い

同僚からいつも兵士らしくないと言われる

そのお上品な様子じゃ、確かになあ――

端末は依然としてしゃべり続けている

受信端末

……え?孫か?

小さい頃はそりゃあ可愛らしかった。母親似のパッチリした目で、頑固な性格は父親そっくりだ

そっちのお孫さんは夜航船生まれかい?

いいや……生まれた年に街で戦闘が起こってな。孫を連れて夜航船に乗ったんだ

当時、夜航船には出産制限があったはずだろ?どうやって生き延びたんだ?

多少は私の顔が利いたからな。数年は孫を滞在させて、その後も生活できるように取り計らってくれた

そんなに顔が利くとは……じゃあその子は今どこに?

あの子は……あの子はな……

病床で伏せっている。目が覚めるかどうかもわからない

じゃあここにいちゃダメだろ。付き添っててやればいいのに!

いや……それはできない。今頃……誰かがあの子の側にいてくれるはずだ

ずっとあの子に、もっと安定した生活や幸せな子供時代を与えたかった。悩むこともなく、大人びた考え方をしなくても済むような……

あの子が生きられないなら、私にも生きる意味はない

死ぬのは怖い?

私が?ハハ……もう何度も地獄の門を叩いた老いぼれだ

死ぬのは怖くない。ただ、子供たちが生き延びられる世界であれと願っている――

いつ何時、どこにいようとも

九龍

「あの日」

九龍六橋港、九龍夜航船停泊埠頭

陣地警戒、射撃データの修正を記録――

77番目標射撃地点、高密度爆弾――

1番装填、照尺375、基準から右へ115、射撃方向005――

電子システムに依存した発射指揮センターはとっくに機能不全に陥り、埠頭上の砲兵陣地では原始的な目視観測による指揮で攻撃を行っていた

高さ約5mの七九式570mm自走砲が黒塗りの砲身を伸ばして、九龍湾から敵を狙っていた。そしてこの鋼鉄の怪物の下で、大きな荷物を背負った市民がひしめいていた

???

文澈!文澈!

血まみれの男性が人混みの中で大声で叫び、手に抱えていた赤ん坊を高く掲げた

名前を呼ばれた人物は高台からすぐに声の主を見つけ出し、隣の部下に指示を続けるように合図を送ると、梯子を駆け下りた

どうした!

この子を……早く、船に乗せてやってくれ

彼は手と同じように血まみれの産着に包まれた赤ん坊を掲げ、文澈に差し出した

どうしてお前だけなんだ!せがれの灼翎はどうした!?

それに嫁さんは!122番工場の人たちは!?避難したのか!?どうなんだ!

馬は喉に何かを詰まらせたようにただ首を振るだけで、その口から言葉は出なかった

このクソッタレめ……馬の馬鹿野郎!お前のその怪我もだ!医者だ!医者を呼べ!

……生き延びろ

全身全霊でその言葉を吐き出すように言った途端、彼はそのまま昏倒した

血と泥にまみれた彼の体を、慌てて逃げる人々が踏み越えていく

それでも赤ん坊を傷つけまいと、その両手はしっかりと文澈に差し出していた

誰か!早く!!

誰かの血まみれの産着に包まれた彼女は、何が起こったのか知らず知る必要もない。贔屓衆の服を着た中年男性を怯えたようにじっと見つめ、だが泣きはしなかった

あの日を彼女は生き延びたのだ

あの日を生き延びた人々の、ひとりだった