Story Reader / 本編シナリオ / 27 稗史刻む焔志 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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27-16 オブリビオン

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夜の砂漠は格別に静かだ。焚き火のパチパチという音も、こんな環境では一層はっきりと聞こえる

ワタナベは周囲を警戒しながら、注意深く自分の関節を分解し、中にたまった砂を掃除していた

空中庭園ではどこにでもあった潤滑油も、離反し地上へ逃げてきてからは、節約して使わねばならない貴重品となっていた

彼は空を離れたことに一切の後悔はなかった。最後の仕事をやり終え、今ようやく何者にも煩わせられず、見捨てられた地上と進退をともにできるからだ

この廃棄機体の状態の悪化を防ぐため、定期的な手入れは必須だった

ふぅ……

防塵カバーを元の位置に再装着し、軽く叩いて問題がないことを確認したあと……

夜はかなり冷える。一緒に火にあたらないか

彼は振り返ることなく言った。しばらくして、近くの岩陰からふたりの人影がそろそろと出てきた

どうして俺たちに気付いた?

そのふたりは兄弟のように見える。兄の方が口を開いた

長年の苦労の賜物だな

6回目にして最後となるグレート·エスケープが終わってから、ワタナベは空中庭園を離れた

廃棄機体を運ぶ輸送機に紛れ、彼は見捨てられた地上へと戻ってきた

地上の状況は想像していたよりもずっと悪かった

グレート·エスケープは、資源や技術、更には秩序まで持ち去り、愚かさや混乱を地上に残していった

スイッチを押しても光は灯らず、蛇口を捻っても清潔な水は出なくなった。当たり前だった便利さが僅か半年で消え去った時……

絶望に打ちのめされた人々は、自分の人生を終わらせるか、傍若無人に生きるかの選択を迫られた……

終末に上演された第一幕は、「欲望」という名の椅子取りゲームだった。持てる者と持たざる者が落差を埋めるために争い、同族を傷つけ略奪するのも厭わなかった

地獄が人間界に君臨した

ワタナベを狙う……正確にいえば、彼の体のパーツを狙う者も当然少なくない

正面きって襲ってきた者たちを何度か撃退するうち、彼は相手が欲望の奴隷なのか、それとも生きるための理性がある者なのかの見分けがつくようになった

私を警戒しているのなら……

ワタナベは一束の乾いた枝を投げた。それを見た年少の子供はパッと後ろに飛びすさった

その薪を使うといい。火はいるか?

……いらない

相手は枯れ枝を積み上げ、胸ポケットから慎重にライターを取り出した

カチッ

火花は散ったが、火は点かない

男性が何度か試すうち、ようやく小さく火がついた。彼は急いで自分の体で風と砂を遮り、炎をゆっくりと枯れ枝に近付けた……

一陣の風が彼のボロボロのマントを揺らしている

炎は数回ゆらめき、消えた。男性はその場に立ち尽くしている

……

ワタナベは焚火の中からまだ燃えている木を引き抜いて立ち上がった。その瞬間、ふたりのスカベンジャーは同時に飛び上がり、自分の腰に手をやった

ワタナベは自分とふたりの間の砂地に燃えた木を差すと、元の場所に戻って座った

……

男性は少し迷ってからその木を抜くと、ワタナベから目を離さないようにして、そのまま弟の側まで後ずさった

ようやく焚き火は燃え上がり、ふたりの顔を照らし出す

ありがとう

遠慮はいらない

両者が黙りこくるなか、焚き火のパチパチという音だけが響いている。薪が3回火花を散らせ、男性が枯れ枝で焚き火をつつくのも5回目になった頃……

俺はウォーターだ。こっちは弟のフリス。あんた、名前は?

ワタナベだ

ひとりか?

ああ

単独とはたいした度胸だ……まさか「オアシス」を探してるのか?

君も彼らを探してるのか?

全員旧時代の兵士らしい。食料や水、武器も持ってるとか……

何より重要なのは……彼らがまだ法律を守ってるということだ。このことだけでも、このひどい世界では十分魅力的だ

相手はもっと暖を取ろうと、体を焚き火に近付けた

力を頼りに孤軍奮闘したところで、あと何日生き延びられるのかわからん日々は、あまりにも疲れる……

彼の声は、砂利や鉄サビを混ぜたように酷くかすれていた

かつて俺たちは自由を追い求めていたが、今は秩序を求めている。たとえどれだけ制約が多かろうとな

もし選べるんなら、誰がジャングルの野獣に戻りたいなんて思う?

……見当はついているのか?

相手は一瞬ためらうように目をそらして焚き火を眺めたが、胸ポケットからそっとボロボロの手描きの地図を取り出した

ある行商人から買った地図だ。その野郎に水2本と缶詰を巻き上げられたけどな

ここだ……

彼は地図上の緑色のマークを指した

ここが「オアシス」だ。昔は新兵訓練の軍事拠点だったらしいが、今は彼らの本拠地になっている

……

がっかりさせてすまないが、その場所にはもう誰もいない。設備や物資も全て持ち去られていた

残っているのは朽ちるのを待つ宿舎と黄砂ばかりだ

行ったのか?

これが、唯一持ち去られなかったものだ

炎の灯りを頼ってウォーターは穴の開いた旗を見た。それは、訓練キャンプを再訪したワタナベがただひとつ持ち帰ってきたものだ

旗に描かれている紋章は、ウォーターの地図にあるマークと同じものだった

あの……クソ野郎!

ウォーターは手を振り上げて地図を焚き火に投げ込もうとしたが、結局そのまま手を下ろし、なすすべなくため息をひとつついただけだった

クソったれの世界だぜ

兄ちゃん……

大丈夫だ。あの行商人も、「オアシス」がもぬけの殻だってことを知らなかったんだろう

礼を言うぜ。教えてもらってなきゃ、無駄足になるところだった

これからどうするつもりだ?

どうするもこうするも……適当にやるさ……

ここで身を寄せられる場所が見つからなければ次の場所へ行くか、行き倒れになるかだな

これが船に乗せてもらえないやつらの運命だよ

……どうやら私たちの目標は同じだな。一緒に行かないか?

……あんた、本当にいい人なんだな

相手は小さく笑い、首を振った

だからこそ関係を悪くしたくない……よほど強い絆か、血縁でもなけりゃ……一緒に行動する集団のほとんどが、水1本や缶詰1個で争うことになる

そうなれば、この穏やかな雰囲気もただの思い出になっちまう

その点については心配無用だ。私は構造体なんだ

なっ!?

だから、君が私を警戒するのも理解できる

ウォーターの率直さにこたえて、ワタナベも彼が抱えるであろう懸念についてはっきりと話した

差し出された手を取るか避けるべきか。疑い続けるか信じるべきか……

ウォーターは目の前で静かに燃える焚き火を見つめていた

じゃあさ……もし食料や水を見つけたら、僕たちにくれるの?

考えすぎる大人と比べ、子供の考えは素直で単純だった

フリス!

当然だ。必要としている人が使えばいい

……

ハハッ……弟もこう言ってる、一緒に行くよ

だがこの単純さこそが、複雑な世界で再び絆を作るきっかけになる

孤独な旅人は、もう孤独ではなくなった

「オアシス」を探し求める旅の中で、さまざまな人と出会っていった

ある者は一度助けられただけで仲間に加わり……

助けていただき……ありがとうございます……わ、私はてっきり……

ある者は同じ立場であることに共感し、仲間になった……

あなたも元地上防衛軍ですか?何期です?

ある者は助けを求めた……

仲間に入れてもらえませんか。パーツを狙うやつらが多すぎて……あなたも構造体ならわかるでしょう……

ある者は温もりを分かち合った……

わかった、これからは俺たちも加わろう。前に怒鳴りつけたことは謝る

軍人、構造体、エンジニア、科学者……

難民、医者、画家、作家……

多種多様な人が仲間に加わり、互いを支え合い、ともに生き抜くことを選んだ

いつしか彼らは最初の目標――「オアシス」を探すことに、もうこだわらなくなっていた

同時に、ある名前を手に入れた――

オブリビオン?

ああ、忘れられし者という意味だ。どうだろう?

なんだかずっと隠されていた地下組織みたいですね

いいんじゃないですか?この時代、注目されないのはいいことですよ……

もう少しポジティブに考えましょうよ……でも確かにそうかも。地上に残された私たちって、まさに見捨てられたんですよね?

見捨てられた者たちが、忘れられないために集まる。私たちの状況にピッタリだと思いません?

そ、それなら『見捨てられし者』と呼ぶってのは……?

聞こえが悪い

語呂も悪い……

はは……ありふれてますね

もういいです、言わなかったことにします……

じゃあ、この名前で決まりだな?

待ってくれ……ワタナベ、あの旗ってまだ持ってるか?

これのことか?

彼はその昔、オアシスの訓練キャンプ地に掲げられていた古い旗を取り出した。時の洗礼を受けて色褪せ、描かれていた紋章も欠けてしまっている

名前も決まったことだし、ついでに俺たちの紋章も決めようじゃないか

我々は「オアシス」を探していて出会った。「オアシス」が過去のことになったとしても、この出発点の記念として残しておけばいい

ワタナベ、どうだ?

ああ、彼らもこういう形で記憶されることを喜ぶだろう

それなら、砂漠の要素を加えるといいでしょうね

炎です!揺らめく炎は絶対に必要です!

軍人の威厳は足さないと……

皆ががやがやと口々にデザイン案を出し合い、普段は少し臆病なジェニーまでもが加わった

キャンプの年老いた画家に多すぎて意味不明な要望を伝えた時、彼の怒鳴り声がエリア全体に響き渡ったが、それはまた別の話だ

数日後……

うーん……やっぱり単純すぎると思います

旗の紋章だし、複雑すぎるのもよくないだろう

アンソニーさんを説得して描き直してもらうなら、応援するけど……

うーん、私の目がデザインの良し悪しを判別できないだけ

では……掲げるぞ!

旗は掲げられた。風と砂塵の中ではためきながら……

それはしっかりと立っている

地下牢獄

??:??

本当に残念だ。長い間ワタナベとともに歩んできた君たちなら、私の選択を理解できると思っていたんだが

あなたは彼が残したもの全てをぶち壊してる!

私たちが団結したのは、誰かに復讐するためではないし、生き残った人々を再び戦争に追い込むためでもありません!

……

では、君はどうだ、ジェニー

空中庭園はかつて君を受け入れたが、敗北時は君を見捨てた

まさか恨んでいないというのか?

恨まないわけがないでしょう……ですが戦争を起こすことには、やはり同意できません

相変わらず臆病だな

……ワタナベさんが、かつて僕に言ったんです。誰かのために自分の恨みを捨てることは、自分のために誰かを恨みに巻き込むことよりもずっと勇敢だと

それがあなたと彼の違いです

ジェニー、彼と無駄話する必要はない

一番奥に閉じ込められた老兵士が鉄の鎖を引きずりながら、牢の扉の前へ歩いてきた

これは一時の衝動?それともはなから計画していたことなのですか?

「オアシス」の時のコードネームで呼びましょうか?

統帥

残念だ。君たちにはしばらくここにいてもらう