これが……宇宙ステーションなのか?
無数の残骸の間をかいくぐって宇宙ステーション付近までやって来たワタナベは、一瞬目の前の光景を疑った
本来真っ白だった船体には増殖した赤い物体がはびこり、いくつもの球状の構造物が奇妙な配置でコアキャビンを覆っている
輸送機が近付くと、その構造物は一斉にグルリと回転し、僅かな白い部分を彼に向けた。まるで好奇心旺盛な目玉のようだ
その物体がどうやって生まれたのかはわからないが、宇宙ステーション全体が完全に歪み、人類の科学研究の場でなくなったことは確かだった
彼の視野の片隅に、寄る辺ない者の残骸が漂っているのが見えた
早く生存者を救わなければ
彼は先ほど通信で受け取った位置へと向かった
ドッキング完了、ハッチを開けてください
はい、すぐに
隔離ドアが上昇し、3つの青ざめた顔がワタナベの前に現れた
他に生存者は?
リーダーらしき人物が首を振った
ここに来るまで生存者はひとりもいなかった。おそらく、私たちがこの宇宙ステーション最後の生存者だろう
どうして確信できるのですか?
私は研究部門の責任者だ。私の端末には宇宙ステーションの職員全員のバイタルサインが記録され続けている
彼はワタナベに端末を差し出した。端末に表示されているアイコンは、ほとんど灰色に変わっていた
灰色になっているのはふたつの状況を意味する。受信範囲を離れたか、あるいは脳活動が停止したかだ
その言葉を聞いて、壁に寄りかかっていた女性は持っていたドローンをギュッと抱きしめた
……乗ってください。すぐにここを離れなければ
宇宙ステーションはすでに異常な状況です。この後どうなるかは誰にもわからない
輸送機は宇宙ステーションを離れた。遠くない未来、彼は再びこの場所と関わることになる。この時のワタナベは、まだそれを知らなかったが
これからどこへ行くんだ?
ドローンを抱えたまますすり泣くジャダとそれを慰めるフィリップに代わり、責任者が訊ねた
私も臨時で配置された立場なんです。あなたたちに何か考えはありますか?
スペースポートの状況は?
制御不能になった宇宙船戦闘部隊を阻止するために、70%以上の救命艇を失いました
操縦桿を握る手にぐっと力がこもった
じゃあ……どこへ行けばいいの?
スペースポートも、宇宙船も、宇宙ステーションもなくなった……
一体何人生き残ったのかしら……
ワタナベはその問いに答えようがなかった
……
4人はしんと黙り込んだ。大移動計画はこの打撃で完全に破綻した。これほど痛ましい代償を支払って、人類は一体何を得たのだろう
この孤独な宇宙で、壮大なスペースポートや整備された宇宙船を見ることはもうないのだ
人類は宇宙に向かって一歩を踏み出したが、すぐさま命を絶たれたという訳だ
彼の必死の努力も、この災害の中では波風ひとつ起こせなかった
エデンⅡ型へ向かおう。あれはただの抜け殻みたいなもんだが
はい
ワタナベは方向を変え、地球に背を向けて進んだ……
その時「流星」が彼の目に映った
あれは……救命艇だ。それにスペースポートの接続キャビンも……
宇宙ステーションのものもある!私たち以外にも生存者がいたんだ!
その「流星」ひとつひとつが、救われた命を象徴していた
彼の個人的な努力ではこの災害に対して無力だったかもしれないが、身を投げうった者は孤独ではなかったのだ
大きな代償を払ったとしても、その犠牲は決して無意味ではない
――流星の群れはエデンへと飛んだ。そこは人類の次なる希望だ
――帰らぬ人の意志を継ぎ、流星は人類最後の砦を守る
――彼らはその勇気と貢献を無言で記録する城壁であり、墓碑なのだ
――そしてエデンはもう空虚な抜け殻ではなくなる
――空中庭園。灯火は未来へと、ここから手渡されていく