Story Reader / 本編シナリオ / 23 稲妻走る冷枷 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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23-3 再会

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ノイズ

これは罠かもしれない。誠意の裏に一体何が隠れているのやら得体がしれない

夜も更けた頃、自分の足音しか感知していなかった聴覚モジュールに、聞き慣れたノイズが響いた

もし空中庭園だとすれば、これほど面倒な罠をしかけることはないと思うわ

αにはこのノイズが現れるタイミングがまだよくわからない。だが今はこのノイズを利用することで考えをまとめようとした

ノイズ

あなたはよく知っているはず。あなたの敵は空中庭園だけじゃないし、人類だけでもない

……

ノイズ

振り返る?それとも信じる?

本当に罠なら、たっぷり餌を用意するはずよ

走りながらもαの目は身を隠せそうな全ての場所をチェックし、尾行や待ち伏せがないことを確認している

あの塔の近くで運試しするより、こっちの方が確率が高い

ノイズ

それでも万全とはいえない。今回もし失敗すれば、あなたは本当に全てを失うのよ

それにどうして自分の選択が正しいと確信できるの?

私はもうすでに振り返ることの代償を見たから

ノイズ

この世に無償の物などない。天秤の両皿には権利と義務がそれぞれ乗っているものなのよ

αは頭を振って、以前のようにノイズを無視しようとした

ノイズ

一時的に逃げたって、それは未来から前借りをしているだけ。今こそそれを返済すべき時なのよ

錯覚かもしれないが、そのノイズは自嘲するような笑い声を滲ませた

逃げる?私は最初から代行者になるつもりなんてない

あの雨の夜以来、重苦しい軍服を脱いだαがやりたいことは、ただひとつだけだった……

ノイズ

ルナの願いを実現し、彼女に自分のやりたいことを成し遂げさせる、でしょう

αは一瞬立ち止まったが、すぐに瓦礫を踏みしめ、目標に向かって進み始めた

怒ったところで現状は何ひとつ変えられない。むしろ意識海が荒れ、そこから何かが芽吹くだけだ

αは黙り込んだままだったが、足取りの早さとせわしなく動く目線が彼女の動揺を物語っていた

ノイズ

彼女は自分で選択をした。それは彼女が願いを達成するために必ず通る道だと知っていたからよ

あなたたちはすでに血脈の繋がりを失ったのに、今は昇格者という最後の絆さえも断ち切るの?

同じ血が流れていなくても、私たちは同じ願いを持っている

冷たくも清らかな月光では、前途を明るくは照らせない。しかし地球の38万km先にあるこの衛星の光は、αの周りが闇だけではないことを教えてくれる

それで十分だった

私は受け入れない。昇格ネットワークがルナを選んだのと同じように、私も彼女を選んだ

聴覚モジュールのノイズはしばらく沈黙した。古いレコーダーのようなザーッというノイズだけが耳元に響いている

やがて、そのノイズがゆっくりと言葉を形作った

ノイズ

昇格ネットワークが彼女を見つけたんじゃない。彼女が昇格ネットワークを見つけた

数カ月前、ある都市の廃墟――

お前を殺してやる……

動けなくなった体から翼がダラリと垂れ下がり、爪もスッパリと切断されている

立ち上がり、目の前の獲物を引き裂きたくとも、もはや関節が言うことを聞かない

話す言葉は破裂した胸から漏れ出し、破れたふいごのような喘鳴にしかならなかった

αは刀を伝う循環液を振り落としたが、それを鞘には納めなかった

彼女は背後の狂ったような叫びを無視し、ただ無言である方向を見つめた

しばらくすると、紫色の髪の構造体が現れた。彼は奇妙な形をした椅子に座っている

どうしてそのまま行かないの?ボクに会ったって嬉しくないでしょう?

ルシア……

久しく聞くことのなかったその名前がαの意識海を微かに波立たせた

だが落ち葉がはらりと水面に落ちたかのように、そのさざなみはすぐに静まった

ここへ何をしに来たの?

今は、仲間を連れ戻そうとしているだけ

その答えを聞いて納得したαは、刀を納めて廃墟の外へ歩き出した

惑砂、彼女を止めろ!

あいつを殺す、殺してやる!同じ結末を迎えさせてやる……ゴホッ……いや、もっと惨めったらしい惨い死だ!

……ボクたちだけではできないよ

それに、あの方にそんなことは命令されていない。もう話さないで、もっと痛くなるだけだよ

折鶴、彼女を連れてって

その言葉で惑砂の椅子はヘビの形へと変形し、ブードゥーにそっと巻きついた

何をする!放せッ!あの女が逃げる……ゴホッゴホッ……

もうすでに廃墟の出口にいるαに向かって、惑砂は訊ねた

ボクを殺さないの?

無意味なことはしないわ

ちょっとでも気持ちが晴れると思うけど

おい、惑砂!

心配ないよ。もしボクが死んでも折鶴が送り帰してくれる

……あなたを完全に殺せる方法があるなら、そうしたかもしれないわね

あの時、あなたがいなくても、彼らは他の方法で他の昇格者に連絡していた

悲劇はいずれ起きていたわ。遅かれ早かれね

私はすでに空中庭園との関係を絶ったの。過去の影に囚われることより、今はもっと重要な目的がある

そう……あの方には別の考えがありそうだけど、ボクは個人的に、あなたの願いが実現するといいなと思ってる

彼女は答えることなく歩き、その白い髪は廃墟の出口から消えていった

次こそ殺す!鋭い爪で引き裂いてやる!翼でぶっ飛ばしてやるッ!

諦めなよ。次だって怪我するのはあなただよ

その太ももを噛みちぎってやる!あいつの目をえぐり出してその穴ボコを循環液で満たしてやる!

ブードゥーはもはや聞く耳を持たず、狂ったようにわめいていた。胸にたまった循環液が、折鶴の尾を伝ってボタボタと滴り落ちている

……大丈夫、ロキだろうがブードゥーだろうが、ボクが全力で助けるよ

通信の内容を聞いたあと、αは全速力であの遺跡へ向かっていた

もともとロランとブードゥーより先に宇宙船に乗り込み、月でルナを探そうとした。だが先に出発していたブードゥーとロランの方が宇宙船に着くのが早かった

ブードゥーと戦っていた時、昇格者のαは急いで駆けつけた4人目がいることを察知した

フォン·ネガットにまだこんな奥の手があるなら、αはその場に残って、それらの「目」を引き止めるしかなかったのだ

ロランとともに宇宙船に乗れば無数の可能性が生まれるだろうが、そのどれもがルナの救助にとっては不利になる

自分もフォン·ネガットもわかっている。ルナがどう変わろうと、αは決してルナを諦めないことを

それこそが、あの代行者が阻止しようとしていることなのかもしれない

救援の成功率を最大限にするために、αは言いたいことを全てロランに託した

自分の言葉がルナに伝わっているのか、彼女は今どうなっていて、これからどうしようとしているのか?

白髪の昇格者は独りで荒野を駆け抜けた。彼女は全ての希望を他人に預けようとはしなかった

突然、何かを聞いたように、彼女はふと夜明けの色に染まる空を見上げた

ほの暗い夜明けの空に、ひと筋の傷をつけるようにして流れ星がゆっくりと落ちていく

ルナ……

大地と空は何百kmも隔たっている。滴る血、「流れ星」の尾はすでに消えてしまった

だが、たとえ体に同じ血が流れていなくても、ふたりはまだ見えない堅い絆で結ばれている

αは一瞬見とれていたが、すぐに足を踏み出した

αが駆けつけた時、太陽はすでに燦燦と降り注いでいた

手入れをされていない木々が家屋よりも高く伸びている

木漏れ日を浴びて、銀白色の少女の周りで光が踊っているように見える

αは目の前の朽ちかけている木の柵を見下ろした

彼女が去った時、彼女の背は柵の半分の高さにも届いていなかったはずだ

だが今はもう、過去に残した痕跡を見つけることはできなかった

人の気配を感じて少女は振り返った。するとそこには、自分にとって分かちがたい人物が目の前に立っていた

彼女はこのまま相手を見つめていたいような、駆け寄って抱きしめたいような気持ちに駆られた。幾千万の言葉を話したいが、無言こそ思いが伝わるのではとも思う……

その前に、何よりも真っ先にやるべきことがあった

ルナ

姉さん、ただいま

α

ええ

αはルナの方へと石畳の上を歩いた――何年も前のあの日と同じように

でもあの時は、ここには雑草など生えていなかった