Story Reader / 本編シナリオ / 22 紡がれる彩華 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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22-20 『雲海の上の旅人』

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新たな異合生物は現れず、構造体たちの叫びや悲鳴も聞こえなくなった

……

アイラは膝をついて目の前の色褪せた構造体を見つめていた。宇宙兵器の白い光が全てを飲み込もうとした瞬間、彼女は構造体の手をつかもうと手を伸ばした

一帯は再び静まり返り、ホログラムの構造体も本来の姿に戻った。色を失った白い体が、空に向けて手を伸ばしたままの姿勢で停止している

立ち止まらない。これらはただの過去の投影です

今はもう、誰も救えない

うん、わかってる

アイラは小さな声で答え、停止している手を握った

構造体の手の中にはデータチップがあった

また記憶データ……

シルカはアイラに向かって頷き、武器で体を支えて立っていたトロイもアイラに「どうぞ」というジェスチャーをした

では、今回も私にお任せあれ!

アイラは慣れた手つきでチップを端末に挿し込んだ

>>>確認――機械教会時間……<<<

>>>モジュール破損、再調整します――<<<

>>>記憶データ状態:未保存<<<

>>>人格シミュレーション状態:オフライン<<<

>>>確認範囲内の生体数量:1<<<

2時間16分23秒前、宇宙兵器の攻撃は夜空を引き裂く白い光とともにこの森に降臨した

空中庭園の兵士たちは宇宙兵器に穿たれてできた深い穴の周辺から撤退し、少なくない犠牲を払いながらも、母体サンプルを手にした小隊を護送した

本来浄化塔があった場所にはぽっかりと黒焦げの穴が空いた。彼は転がる武器をまたぎ、倒れた残骸を抱き起こした。そのため残骸の弾痕に溜まった正体不明の液体が流れ出す

何かが立ち上がろうとする彼の動きを引き留めた。見下ろすと兵士の遺体と黒焦げの木々の下から伸びる一本の手が、彼の服を握りしめていた

構造体

……

すでに壊れかけた発声モジュールから悲鳴がしたかと思うと、その構造体はがっくりと頭を垂れた。その後、声をあげることはなかった

>>>確認範囲内の生体数量:0<<<

この乾いた焦土にはいかなる生命の痕跡も存在しない

その構造体の襟元から認識票が滑り落ちた。月の光の下で、彼はその名前を読んだ

……「ジョイス」

彼は焦土を歩き回り、犠牲となった全ての兵士の名前を記録し、彼らの記憶データを全て保存した

ほとんどのデータは破損し、空の弾倉と折れた刃だけが兵士たちの信念を訴えかけていた。生き残る希望のない戦闘だと知りつつ、彼らは最後まで希望を捨てずに戦い抜いた

……

巨大な穴の近く、爆発の余波を受けなかった森の中で彼はカバンを見つけた。誰かがここから逃げる時に落としたようだ

地面に散らばっていたのは生きるための食品や工具、医療器具だ。彼は道端で死んでいた多くのスカベンジャーが、同じような荷物を持っていたのを何度も見てきた

これは……

彼は正方形のカードを拾いあげた。それは識別カードだったが、黄ばんでIDが判読できず、写真と裏にあるマークだけが僅かに読める程度だった

……生物科学株式会社?

カバンは血に染まっていた。つまりカバンの主は襲撃され、怪我をした体を引きずりながら森の外まで移動したということだ

地面に残る血の跡に沿ってしばらく歩くと、血に染まった小袋が落ちていた

その袋は縁が摩耗していたが、大事に使われていたらしきことがよくわかる

>>>確認:植物の種――アジサイ科アジサイ属、アジサイ、黄金時代にはよく見られた植栽観賞植物<<<

>>>データベースがオフラインのため、詳細情報を確認できません<<<

>>>キーワード検索:植物<<<

>>>記憶モジュール読み取り完了、記録を再生します<<<

……あなたのご指示通り、なるベく育てやすいもの、または室内栽培に適した花を選びました。どれもあの機構がまだ正式に販売していない改良品種です

機構?ああ、俺がいなかった時に訪ねてきてたな……

はい、彼らは先生との協力を望んでいました。コンステリア緑化事業を任せてくれないかとのことでした

考えておこう

これでいいか?

ミケーレは立ち上がって手の土をパンパンとはらうと、目の前の簡易の花畑を見ながら、突然大きく目を見張り、笑顔を浮かべた

これは先生が絶妙なアイデアを思いついた時に見せる顔だった

そうですね

水やりの頻度や光の照射時間、肥料の撒き方はここに記載しています。あるいは私にお訊きください

花の種と球根の種類についてですが、左から……

シーッ、何の品種かは言わないでくれ

花が咲いたらわかるはずだからな

それまで何が咲くのか、ワクワク期待する方が楽しいだろ?

……かしこまりました

ミケーレは助手の肩を叩くと、花畑の前の椅子に一緒に座ろうと合図した

今日は本当にいい天気だ

見てみろ、ベランダ中の花が咲く頃には、コンステリアのあの頂上の風車も回り始める

その時が来たら、あの街の誕生を祝って花を贈ろう

観葉植物の種など、今の人間の生存にとってはまったく不要だと思うのですが

なぜそれほど大切に持ち歩いておられるのですか?

その疑問に答える者はいない。途中で集めた痕跡からのシミュレーションでは、浄化塔から逃げてきたこの2名だけがここにたどり着いたが、その生還確率はゼロに近い

彼はその種を元の袋に戻そうとして、結局は種と識別カードを自分のポケットに入れた

この行動は、彼の基本プログラムにはないものだった

>>>確認――機械教会時間……<<<

>>>237回目のシミュレーションを実行――結論を生成しています<<<

彼は教会から最も遠い塔の上に座り、全てを俯瞰している

何度シミュレーションしようと、結果は一度も変わらなかった

前線で奮闘する構造体が次々とパニシングに侵蝕され、知性のない侵蝕体になっていく。強靱な兵士も、災厄の波に阻まれ一歩も前進できない

この世界は悲劇と絶望が延々と繰り返されるデッドエンドだ

だが彼は見た。雨雲から差し込む暁の光とともに炎の翼を広げた白い鳥のような純白の少女が現れたのを。その光の下で冥府を漂う兵士たちが蘇るのを

彼は見た。侵蝕から目覚めた兵士たちがためらわず突進するのを。彼女のために青い霜と弾丸が盾となり、人型生物が純白の炎に焼かれて後退していくのを

彼は見た。脆弱な人間が、まだ治りきらない体で外骨格に頼って全力で走り、墜落する白い鳥を受け止め、彼女の枷を外すのを

彼らの将来には幾多の困難や苦しみが待ち受けている。しかし彼らは、前へ進むのをやめようとしない

また今回もシミュレーションの結果とは違いました

……なぜでしょう

なぜ……あなたたちにこんなことができるのですか……?

今まで見てきたことに対する全ての疑問の答えが見つからないことに、彼は更にとまどった

少女が永夜に宣戦した姿はまぶしく輝いていて、彼は先生が「灯台」について語っていた時の表情を思い出した

これがあなたが求めているものなのでしょうか、先生?

彼に答えるのは、ひっきりなしに吹きつける風の音だけだ

>>>確認――機械教会時間……<<<

>>>座標確認、フェイスマッチング、身分を確認しました<<

シミュレーションでは絶対生き残れなかったはずの人間が死なず、再建された保全エリアで新しい生活を始めるとは想定外だった

彼はあの災難から逃れた人間がどうなるのかを観察したかっただけだが、意外な結果を手に入れた

とても些細な部分だが、現実のコースはまた彼のシミュレーションとは違っていた

だが一方で、それは彼の疑問に答えがあるという可能性のひとつでもあった

お願いします

お任せください。物を届けるべき場所へ運ぶのは、私の得意技です

これは……

あっ……あぁ……

その人間は花の種が入っていた袋を握りしめ、ゆっくりと地面に膝をついた

密やかな泣き声が聞こえた。最初はすすり泣きだったが、そのうち抑えきれない号泣へと変わった

なぜか彼には、その涙は絶望からではなく、救われたことで流されている涙だとわかった

だから、彼は余計に困惑した

……

なぜ一袋の種ごときに、人間はこんな反応をするのだろう?

訊いてみたが、この種は誰から送られてきたとか、保全エリアのやつらは誰も知らねぇんだ。急にぽんと現れたんだとさ。気味が悪りぃよな……

……

いや、すっげえ奇跡だって意味だぜ

てか、今のは俺もたまげたぜ?急に狂ったように人に訊ねまわるなんて……あんなお前を見るのは久しぶりだな

まさかこれが戻ってくるとは思ってもみなかったんだ。これは俺にとって……とてもとても大事なんだ

泣きわめいていた男はすでに落ち着きを取り戻したが、袋をグッときつく握りしめている。そして片足を引きずる彼の仲間が横にドサッと座り込むのを見ていた

ああ、わかってるって

何年も経ってるけどもよ……まだ娘が生きているって信じてるんだろ?

一縷の希望がある限り、俺は諦めない

……わかった。俺も最後までつき合うぜ

そういえば、向こうにいた人が花を植えるための場所をくれるって言ってたぜ?

ちょっと俺は相談しただけなのによ。ここのやつらは話がわかるやつらだな

……

スコップを持ってきてくれないか?もう腕が上がらないんだ

お前のことがよくわからねえな。こんなことになってても花のことばっかりだ。まともなやつは誰もが補給を探すので必死なのに、お前ときたら……

「髭」は頭を振りながら、持っていた本のページをめくった

これからどうなるかはわからないが、種を撒けば、芽吹く日は必ずくる

もし娘が本当に生きていて、もし俺が植えた花を見たなら、俺が彼女を探してるってことがわかるはずだ

……へいへい、そうだな。お前はいつもこうだ。俺まで巻き込みやがる

ところで、さっきから何を読んでるんだ?

漫画だよ。俺らの時代にはこんなのがたくさんあっただろう?数十年近く見かけなかったけど、まさかこの保全エリアにこんなものがあるとはな

なんでも空中庭園の構造体が持ってきたらしい。で、残ってたスープと交換したんだ

でもさ、なかなか話が面白いぜ。ザックはこういうの、好きだと思うか?

確か彼のコレクションにアニメのCDがあったはずだ

苦笑いしつつも懐かしさを覚えて、ふたりは顔を見合わせた

いつか……人間が本当に地球を奪還できたら、こういうものがまた息を吹き返すだろうな

そうなれば、俺は娘と一緒に花屋をやる

いつかそうなるといいな

そうだ、この漫画が読みたいなら、そっちの壁にも1冊あったぞ。これよりも新しいやつが

漫画……

彼は小さな冊子を手に取ると、表紙の埃を手で拭き取った

>>>黄金時代の書籍出版情報を検索――タイプ:漫画<<<

>>>結果がありません<<<

これは黄金時代の漫画ではなく、最近印刷された作品だった

まさかこの時代に、ほとんどの人が「無意味」だと思っている創作活動を、誰かが続けていたとは

ページをめくると、色鮮やかな色と想像力が表れた。その生き生きとした生命力と情熱的なタッチは、紙を飛び出し、この鉛色の街をカラフルに染めていくように思えた

これは……

表紙には漫画の発行元が書かれていた

空中庭園――世界政府芸術協会