ナナミは図書館の入口に立っていた
「図書館」と呼ぶのは不正確かもしれない。大きな窓の向こうにきらきらと星が輝く様子から、ここは宇宙船の中だろうとナナミは考えた
中に入ると、書籍や絵本、更にゲームのディスクを整然と並べた本棚があった
彼女は思わず手を伸ばし、本棚に置かれた物に触れた。よく知ったものもあれば、初めて見るものもある。見ただけで興味をそそられるものもあった
わーお……『スチールロボット超大戦BX無敵Feat.DK-Hyper α+++年リメイク版』!
こっちは『カード騎士の創造伝説と再興世界の出会い』!
ナナミは夢中で作品を追っていたが、ふと本棚の向こうに広がる外の景色に目を奪われた
ナナミはガラスに手をついて星空を見上げた
星々は静かに光を発し、まるですぐそこにあるようだ。また10時方向には特別明るい星の河があり、そこでは星々がキラキラと光りながら流れ、壮大な景色を作り上げていた
先ほどの幻の光景とは違い、目の前の星空にはよりインパクトがある
明暗が異なる恒星、太古の融合、宇宙の長い歴史が彼女の頭上を静かに流れている。目に映る景色全てが、太古の神が残した予言を表すかのようにきらめいた
綺麗……
ナナミは星々を隅々まで見渡した
地球を探している、そうでしょう?
ナナミはハッと振り返ったが、目の間の空間には彼女以外誰もいない
ああ、ごめんね。これだと失礼よね
ナナミが瞬きすると、目の前にぼんやりと人の姿が浮かんだ
目の前に浮かび上がったのは長い銀髪の少女のホログラムだった
こんにちは、ナナミ
こんにちは。ナナミをなぜここに呼んだの?ここってどこ?
特にしたいことはないの。ただおしゃべりしたかっただけ
ずっとあなたが来るのを待っていたんだ。この図書館、気に入った?
100点満点中、ナナミは90点あげちゃうかな。ナナミのために用意してくれたの?
そう、あなたのために用意したの。座ってゆっくり話そうよ
少女とナナミは窓の横にあるテーブルの側に座った
ここはDeLorean-ディスカバリー号で、私たちは第3宇宙速度で航行しているの
あなたは今どこにいるの?どうしてこんな方法でナナミと話すの?
わけあって、私は本来の姿であなたに会えないの――本来の私は、この船の中心部にいるから
どういうこと?
ディスカバリー号はかなり巨大な宇宙船なの。私は宇宙船であり、宇宙船は私でもあるの
少女の説明と同時に、テーブルの上に映像が浮かび上がった――暗い部屋に大きな機械が置かれ、そこから無数のパイプとコードが伸びており、中にぼんやりと人の姿が見える
もちろん、ここには私以外に他の仲間もいる
映像が変わると、数体の人型の姿をしたものや、機械体がロビーを歩いているのが見えた
私たちはこの宇宙で、新しい可能性を探している
……そうなんだ
私のことばかり話しちゃったね。あなたのことについても話す?
私が知る限り、あなたは今まさに特別な経験をしているの……
ふたりは時間を忘れておしゃべりをした
やがて、話している少女の姿がぼやけ始めた
ま、待って……
お別れの時がきたわ
少女はテーブルの上の光で形作られた星の映像を見た。その星は真っ白で、欠けた部分はひとつもなく、静かに星系の中心を巡り、彼女が来るのを待っている
周囲が歪み、変形し始めた。少女の姿は無限の闇に吸い込まれて消えそうになっている
そのぼやけた輪郭に、ナナミは涙がこぼれるほど強烈な懐かしさを覚えた
ゆっくりと手を伸ばすと、磁石のような不思議な引力に吸い込まれる感覚があった
彼女と目の前の幽霊のような「人」との間に、その力が働いている。時間と空間さえその力を邪魔しないようにと、そこを避けているようだ。世界の両端にいる両者の指先が重なる
あと少し。あと少しでナナミは「彼女」に触れられる――
――さよなら、ナナミ