真っ白い炎に焼き尽くされ、異合生物は赤い霧と化して、少女の機体に取り込まれていった
暗雲からこぼれ落ちた光は穏やかに、漆黒の闇を彷徨う者を包み込んでいく
あれは……光?
パニシングの侵蝕が消え、侵蝕されていた機械と構造体たちは徐々に理性を取り戻していった
……私、どうしてここに……
おお、お前も目覚めたのか!
……まさに奇跡だ
制御不能なパニシングを、もう恐れる必要はないのだ。侵蝕された仲間を、もう殺す必要はないのだ。人々に、歓喜と信念の輪が繋がっていく
おい!こっちにも応援を!
大丈夫だ!
彼らは手を取り合って完全武装の防衛ラインを作り、リーフの進攻のための時間を稼いだ
たったひとりで死へ赴く少女は、もう独りぼっちではない
群衆に守られて、白夜の光はパニシングを食む怪物のように、純白の炎を掲げながら、憎むべき災厄から人間の領分を取り戻していく
やっと……やっとこの日が来た!!
星全体の崩壊に比べれば、これは傷口を濡らす一滴の薬でしかない
だが、崩壊を止めるこの薬を作り出すために、人類はあまりにも膨大な対価を払ってきた
目を覚ました構造体たちは歓声を上げた。黎明が訪れ、未来には青天が広がっているのだと
……全て順調です
研究者たちの計画通り、機体はパニシングを続々と少女の意識海へと送り込んでいく
同時に、彼らが予想していたように、代行者の模倣品では、パニシングを自らの力に転化できない。Ω型武器には限度があり、吸収し切れないパニシングは少しずつ蓄積される
……パニシングを吸収する速度を制御できないのだ。また、彼女も制御しようとしていなかった
「白夜」という機体の持続時間は、月下美人のように儚く短い。その美しさを堪能する十分な時間は決して与えられない
3時間の命を握りしめて、リーフは今、自分の限界を越えようとしていた
あああ、ここまでとは。ものすごい数の侵蝕体を浄化し、多くの意識を取り戻しちまった
ああ、なんて美しいんだ。地球全体の侵蝕体にとっては、まだまだこんなモンじゃ足りないが、俺たちは確かに希望の光を手にした……
ウィンター計画で犠牲になったヤツらもさぞかし喜んでいるだろうよ
グリースはモニターに映るリーフを見て、感動の涙を流している
残念だぜ、この女の命と引き換えでも、こんなちょっとの戦果しか上げられないなんてな
これで本当に、災いを切り裂く刃を手にしたといえるのか?
観測データから見れば、その答えは「はい」でしょうね
今のところ、パニシングが浄化されたあと、異合生物は完全に消滅している。侵蝕された構造体もある程度の理性を取り戻しています。引き続き、観察は必要ですけれど
助けられなかったのは……パニシングに汚染された人間だけ
人体は、脆弱すぎるのだ
いやいや、俺たちには血清があるぜ。Ω型武器なんかより、ずっと前からあるじゃねぇか
…………
リーフの状況はどうだ
Ω型武器は彼女の侵蝕度をまだ制御してる。しかし侵蝕よりも、意識海の方が先に過負荷になりそうだな
ちょっと待って、様子がおかしいわ
一同は彼女が見ている映像を同時に見ながら、困惑の表情を浮かべた
ただのノイズでしょう。おそらく侵蝕体の鳴き声かと
いや、違う
彼は記録されたデータを見て、後ろにいる教授とひとつひとつ丁寧に調べていった
……これは声ではなく、彼らの記憶です
ひとつ、考えがあります
侵蝕体と死者の記憶?
ええ、前に観測した状況から推測すると、赤潮には死者の記憶が大量に取り込まれています
これらのデータがパニシングに記録され、赤潮の影と類人に人格データを提供しているからこそ、彼らが死者の声を模倣できるのです
今、パニシングはリーフに吸収され、その記憶も彼女の意識海に流れ込んでいます
侵蝕体ではこの現象は確認できなかったわ。まさか、意識海がとても安定しているから、データを解析できた……?
それは機体を回収してから、分析してみないことにはわからんな
…………
でも、これは、決していい兆候ではありませんね
なぜだ?
九龍商会の記録にこんな昔話があります。「胡蝶の夢」、議長、聞いたことはおありですか?
あいにく、九龍の文化には通じていないんだ。確か……自分が蝶になってしまう夢だったかな
「自分が蝶になったのか、蝶が自分になったのか」
昇格者と違って、彼女は「死者の記憶」を制御できません。このままでは膨大なデータに翻弄されて自我を失い、他人の記憶に飲まれてしまいます
つまり彼女は、死んだ人々や彼らの死ぬ前の記憶を、自分のものだと考えるようになってしまうということです
もし、我々が幾千万の個体の誕生から死までを追体験させられたら、どうなると思います?
…………
…………
テスト結果への影響はどうなんだよ?
特化機体とΩ型武器の融合に関しては、もう成功したも同然だ
だが、人型生物を消滅させるという重要任務がまだ残っているだろ?
この結果だけで十分だ。たとえ、彼女が今回の人型生物を消滅させたとしても、いずれ次の人型生物が生まれてくる
データを回収して改善し、より安定した機体を作らないと、失敗が繰り返されるにすぎん
記憶の流入、その症状を抑制する方法は?
……ない。あってももう間に合わん
………………
意識海へのダメージが大きすぎます。万が一彼女が生き延びられても、激しい幻痛以外にこれらの死亡と記憶のデータが、一生彼女につきまとう……
……リーフ……
……あなたが生きて戻ることを切望していたのに
今は……死があなたを解放することを……望むべきなの……
教会に閉じ込められた仲間を呼び起こし、意識海がまだ残っている侵蝕された構造体を覚醒させていった
少女は教会広場と廊下の上を自由に飛び回っている。彼女は呼び戻せる構造体を探し、自分の命の1秒1秒を、他の命の救済に捧げている
しかし、研究者たちが予想した通り――
彼女の意識海は大量のパニシングに侵蝕され、少女の脳内にはぼんやりとした声が響いていた
その声が次第に明瞭になり、次に現れたのは侵蝕された者の記憶だった
赤潮に飲み込まれた時、意識のデータが一体化されるように、リーフも少しずつ彼らとリンクしてしまったのだ
意識海から無数の叫び声が聞こえ、まるで棘のように、彼女の心に突き刺さり、食い込んでくる
声は次第に大きくなり、まるでその場にいるかのような臨場感をもって迫ってきた
彼女は、犠牲者たちの死ぬ寸前の苦しみを感じ続けた
助けて!!痛い!!痛いよぉぉぉぉぉ!!助けて!!!
鋭いナイフが指先を掻っ切るように、人工皮膚が振動しながら剥がれ落ちていく
皆、死んじゃった
残っているのは私独り……
両目にナイフを刺されるように、死に際の言葉が水晶体に刻まれていく
彼女を守るって言ったのに!!なのに、その手で殺すのか!!
仕方ないだろ!!侵蝕されたんだ!!
声に聞き覚えはないが、そのセリフは幾度となく聞いた。これは、この世界で毎分毎秒響いている悲鳴だ
どうして、彼らの「死」を感じるのだろうか
機体には代行者に似た力があるだけで、制御することは不可能だから?
それとも、少女が他人の痛みを肩代わりしたいと願ったから?
今は結論が出ないだろう。それでも、少女は自分の手を止めなかった
……大丈夫……もう怖がらなくていいから……その痛みを、私に託して
無数の<//記憶>が交わり、まだ生きている少女は、助けることのできなかった死者たちの思いを包み込んでいった
彼女<//ある構造体>は耳をつんざくような爆発音を耳にし、バラバラになっていく自分の機体を見た
腹から循環液が流れ、激痛が意識海を流れる
ああああ……
死にゆく意識が自我を覆い、窒息しそうだ。彼女は両目を閉じたが、瞼の裏には廃墟となった町が見えた
彼女<//ある構造体>は、小石だらけの道を必死に走っている
どこへ逃げようとも、行く手には、完全武装した研究室のメンバーが待ち構えている
夜空には冷酷な月がかかり、彼女<//ある構造体>の無駄な悪あがきを眺めている
離して!!実験室には戻りたくない!!
「記憶」の泣き声は、少女の悲鳴と重なった
庭先で倒れ、真夏に咲く大輪の花が血に染まった
「3079号……ここが――ザザ――好きなら、守ら――ザザザ――ないと……」
データは断片的で、言葉の全ては記録されていない。しかし、言葉なんかよりも、今は目の前の負傷者の止血をしなければ
包帯を取り出そうした時、リーフ<//ガーデナーロボット>は制御不能になり、チェーンソーを振り下ろした
嫌……違う……傷つけるつもりは!!
悔やんでも、過去<//データ>は変わらない
「船」とともに旅立ってから6年が経ち、構造体になったリーフ<//少年構造体>は脱走兵として、故郷へ戻った
見慣れた町はすでに廃墟となり、グレート·エスケープに見捨てられた人は、白骨化していた
ごめんなさい。ただいま……
彼女<//少年構造体>は涙ながらに「家族」の死体の隣に横たわり、パニシングが自分を侵蝕するのをじっと待った
リーフの自我は分解され、無尽蔵の死の記憶の中に溶け込んでいく
彼女は雪の下で砕けた白骨でもあり、深海で彷徨う侵蝕体でもある
彼女は機械工場の精密機械の部品でもあり、雨のように降り注ぐ銃弾の欠片でもある
彼女は畑を守る者でもあり、腹を空かせて食べ物を探しに来た人々を殺す機械でもある
彼女は赤ん坊を寝かしつける看護師でもあり、彼らに悪夢を届ける葬送者でもある
彼女は仲間を引き裂く侵蝕体でもあり、仲間に侵蝕された者でもある
彼女は家族とともに世紀末の到来前にガスに溺れ、同時に78名の構造体とともに戦って死んだ
女性が津波の中で赤ん坊を抱えている。すでに侵蝕された者は、自分の命をかけて彼女<//侵蝕体>が他人を殺す未来を少しでも遅らせようとしている
彼女<//我々>は死の永夜へ踏み出さざるを得なかった。彼女<//我々>は煉獄の中で、彼女<//我々>とは異なる言葉、異なる体で、彼女<//我々>と同じ怒号を上げた
彼女<//我々>が肌に刻みこんだ「哀歓」
彼女<//我々>が見つけられなかった「自由」
彼女<//我々>の惜しみない「慈悲」
彼女<//我々>は陸地を離れる「船」
彼女<//我々>は魂が燃え尽きる前の「別れの言葉」
彼女<//我々>は燃え尽きたあとの「死」
我々はもがき<//諦めない>、憎しみを募らせ<//諦めたくない>、そして悔やむ<//諦められない>
群衆の感情と死が少女の体に集積し、命を讃える挽歌となる
これが、私たちの選択……
もし、闇夜に輝く残り少ない光を守ることができるなら……彼女<//我々>は全てを、我々を育ててくれた星に捧げるだろう
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悲しみに染まった夢を見ていたようだった。その人が、茨で作られた牢屋の中をどれほど長い間流離っていたのか、誰にもわからない
突然、右手に焼けるような痛みを感じた。暗闇の中で手を見ると、誰かの涙の跡のようなものが、手の甲に残っていた
一体、誰の涙だろう?
周りにいたはずの仲間はすでにいなくなっており、血の足跡だけが、遠くへと伸びている
何度、血の跡を追っても、この広大な霧の中で方向を見失ってしまう
もう何度目だろう?
どんなにもがいても、探しても、ここから出る方法を見つけられない
ここにあとどれくらいいればいいのだろう?
もう目覚めることはないのだろうか?
精一杯、仲間の名前を叫んでも、返ってくるのは自分の声のこだまだけ
……ここに彼らはいない
行く先を失い、体力の限界を迎えて、先の見えない牢獄に力なく膝をついた
…………
………………
……………………………………………………
あら……叫んでいるのは、あなたでしたか……
どこかから、聞き覚えのない優しい声が耳に響いた
ここから出たいのですか?
あと数日もすれば、彼女らの努力によってこの牢獄は打ち破られます
でも……待っているだけなら、間に合いませんね
…………
私が、お手伝いしましょうか?
まだ自分を取り戻せるうちに目を覚まして、前進して、自分で選択ができるように
……「永遠の冬」が訪れる日までに
…………
では……[player name]、あなたにとって……悔いのない「旅」ができますように
混沌とした悪夢から目覚めると、そこはスターオブライフの病室だった
枕元には紙で折られた月下美人のような花が置いてあり、それからは埃と血の匂いがする
必死にベルを鳴らして、体を起こそうとした。しかし、体に力が入らず、ちょっとした動作に、いつもよりかなり多くの力が必要だった
壁にかかるカレンダーを見ると、プリア森林公園跡の任務から、すでに3カ月が経っていることに気づいた
寝たきりの生活に慣れた体を何とか起こし、ベッドから立ち上がって、外へ出ようとゆっくり歩いていく
入り口の近くまで来たところで、突然、若く見える医者が部屋に入ってきた
あら?眠れる森の美女が、やっとお目覚めね?
なぜだかわからないが、この見知らぬ女性の顔に怒りが見えたような気がした
…………
そして、彼女からリーフと皆のことを聞いた。再び枕下を見て、その紙の月下美人の意味を、やっと理解できた
こんな状態で?
こんな体の状態では足枷になるだろう。だが、ここで負けを認めてしまったら、たったひとつのチャンスを逃してしまう
しかし、後悔するからといって無茶をしていい訳でもない。合理的な戦術を練る必要がある
教授から教えてもらった情報によると、ルシア、リー、クロムはすでに歩ける程度まで回復しており、通信と遠隔リンクができる状態だ
…………
彼女は疑っているようだ。そもそも、この作戦に納得していないからだろうか?
これ以上、時間を無駄にはできない。彼女を説得しなくては……
…………
彼女はいきなり、めいっぱいの力で自分の肩を叩いた。その反動で、危うく転ぶところだった
あなたは起きたばかりだし、妙に興奮して自信満々だから、頭がどうかしたのかと思って
頭はちゃんと回っているようだし、3カ月寝たきりだったからって廃人になった訳でもなさそうですから、止めたって無駄なんでしょうね
ほとんど3カ月も同じです
まさか、精密検査をする時間があると思わないでしょうね?立っていられるだけで十分、今は他に方法がないから
それとあなたの計画について、他の人にも成功率を評価してもらいます。人を呼びに行く間に、自分で服を着ておいてください……それくらいはできますよね?
うん、元気そうね。起きるタイミングがちょっと遅かったけど、頭の怪我で3カ月も寝込んだ人としては、見た目も大丈夫そうだから、何というか……
彼女は言葉を探しているようだ
神仏?誰かが実際にあなたの面倒を見なかったらとっくに死んでいたんですよ。世話してくれた医師や看護師、それから現代の医療技術に感謝するべきですね
彼女はまたドンと背中を強く叩いてきた
そう、世話してくれた医師と看護師にも感謝しなさい
現代の医療技術にも感謝しなさい。医療従事者も患者も、医学の発展のお陰で、ここまでこれたのですから
着替えを済ませ、ベッドのカーテンを開けると、入り口によく知っているふたりが立っていた
我々は一緒にリーフの状況を見ていたんだが
君の病室のベルが鳴ったので、真っ先にヒポクラテスに行ってもらった
……元気そうだな
リーフの状況はかなり厳しい。彼女の意識海は反復して汚染され続けている
頭にアメーバが湧いてもおかしくないほど寝ていたのですよ、何がわかるというのですか
君の計画をヒポクラテス教授から聞いた。ひとつの希望として可能性はあるが、確実性を欠くな
リーフの意識海はもう分解してしまっている。意識リンクしても回復するのは難しいだろう。むしろ……リンク自体ができないかもしれん
どうしてもというなら、まずグレイレイヴンの他のメンバーにリンクして、それを媒体にして、リーフとの距離を縮めてから意識海に強制潜入するしかないだろうな
まず、彼女の意識の断片を確保して、データとパニシングの流れ込みを阻止してからなら、リーフにリンクできる可能性が僅かにある
汚染された意識海に無理に潜入すると、お前たちの意識がデータ乱流に飲み込まれる可能性がある。パニシングの汚染以外に、大量のデータに妨害されてしまう
そうなったら、お前と「媒体」も巻き込まれて、汚染される可能性がある
深層リンクを構築するためには、物理的に彼女の近くにいなければなりません
地上には大量の異合生物が集まっています。頭を負傷し、目覚めたばかりのあなたでは、外骨格があっても、行動はかなり制限されると心得た方がいいわ
大量の輸送機を投入し、侵蝕から回復した構造体を連れ戻すつもりだ。当然、君がリーフに接近する作戦にも護衛をつける
…………
たくさんあります
たとえば、リーフがつけている電磁パルス減衰リングはすでにカウントダウンに入っています。それと彼女の侵蝕度も
全てが上手くいったとして……彼女の意識海はもう崩壊を始めており、リンクだけでは回復できません
ないことはないですが、半永久的な後遺症が残ります
自分の担当患者が目を覚ましてくれたのは嬉しいけど、リーフを助ける件については、もう少し慎重に考えて欲しいわね
彼女の後遺症は、私たちが推測したものよりずっと重く、今後、彼女は生きているだけで拷問のようなものでしょうね
………
[player name]、議長として、私は空中庭園の精鋭を守らなければならない。もう一度、慎重に考えてくれ
これは極めて危険な作戦で、成功率も低い。もし失敗したら、君は死ぬかもしれないんだ
そこまでのリスクを冒して、最大に得られる対価は彼女の命を助ける、その一点だけだ
君は輝かしい未来が待っている指揮官だ。今、やすやすと危険に晒す訳にはいかないんだ
これほど危険な状況だとわかっていて、あえて、行くつもりというんだな?
理由を教えてくれ
…………
…………
そうだな、もしかしたら……私も奇跡を期待しているのかもしれない
議長……!
挑戦せずに諦めるなんて、若い頃とは事情が違うようだな、ヒポクラテス教授
…………
出発の準備を、[player name]。あとは途中で話そう、時間がない
無事に戻ってきてください。そうじゃなければ、私が遠慮なく解剖しますからね
彼女は深刻な顔で頷いた
無限の死を旅して、少女は体も心もボロボロになっていた
一体どれほど続いたのだろうか?時間という概念は彼女にとって、すでに意味を失っている
一瞬のようでもあり、数百年のようでもあり
彼らは、すでに侵蝕状態から回復したのだろうか?
私の使命は、もう終わったのだろうか?
孤独な少女は、命のカウントダウンなど見ていない。彼女はすでに混濁した意識の中で、盲目的にパニシングを吸収し続けている
あとちょっとだけ、頑張ろう
計画より、ひとりでも多く助けることができれば、死ぬ時の悔しさも少し減るだろう
そう考えながら、彼女はゴールへ向かってひたすら進んだ
……いくら名残り惜しくても、もうそろそろ終わりの時間だ
――リーフ!!!
暗闇の中、繰り返される悲鳴に紛れて、誰かの声が聞こえた
誰……?
戻って!!
懐かしいあの声が、胸を張り裂けんばかりにして叫んでいる
戻って!!こっちを見て!!リーフッ!!!!!
…………
リーフ!!これ以上、仲間を失いたくない!!
…………
その叫び声を聞いて、疲弊しきった精神を集中させ、リーフは声が聞こえた方向に振り返った
その瞬間、彼女の意識はやっと汚染と侵蝕から、一時的な休息を得ることができた
次の刹那――
混乱した死の記憶が形を作り、彼女の前でふたつに割れ、町の幻影となった
……これは……
相反するその世界は、理解しがたい光景だった。しかしその幻影の中に、彼女はよく知っている姿を見つけた
……これは、確認しようのない推測だが
特化機体が「吸引」したパニシングを、Ω型武器が「吸収」し切れなくなり、お前の侵蝕値が限界を超えた時……
……この特化機体の力によって、意識を維持した状態のまま、お前が昇格ネットワークに接続できるかもしれない
……昇格ネットワーク……こんな様子なんですか?
「たとえが適切ではないかもしれませんが、認知を超えるものが現れた時、人はその全容を理解できません。3次元に生きる者は4次元、更なる高次を理解できないのです」
「今、あなたはその不可解な状況の中で、自分が理解できる範囲のものを理解するしかできないのです」
誰の声?それとも、誰かがここに残した記憶?
この声……まるで……
霧の中であなたの道標にならんことを、あなたが無事戻ってこれることを願います、リーフ
…………
「初めて昇格ネットワークに接続した構造体は、自分に関するデータを目にします。いわゆる面接みたいなものと考えてください」
……どうして、こんな言葉が聞こえるのでしょう
「もし『なぜなら』/あなた『私』彼女/望み『思い』答え『知る』秘密/」
たくさんの人の声が重なっていた。リーフに言っているのか、それとも、ここに記録されている言葉が再生されているだけなのか
その冷たく感情を持たない言葉を聞いて、リーフは少し前に聞いたある声を思い出した
……昇格ネットワーク……まさかゲシュタルトと似たような存在?
しかし今回は誰も答えてくれなかった
質問の答えは見つからない。悲鳴の源もわからない。しかし、彼女は久しぶりに心地よさを感じた
この空間は、時間が止まっているみたいだ。ここでは体の痛みを感じない
……まるで……
死――
……ここに残りたいのですか?
私の使命は、もう終わったはずです
……そう願うなら、残ればいいのです
彼女はゆっくり目を閉じようとした。その時、裂くように鋭く、再び叫び声が響いた
――行くなッ!!!
……駄目、ですか……
何度も死を経験し、少女は身も心も砕かれていた
それでも、彼女はその悲痛な叫び声を放っておくことができない
……まだ、頑張れる……?
彼女は戸惑っている。「曖昧」なままでは選択ができないからだ
彼女の質問に答えるように、空虚な空間に、彼方へと続く2本の道が現れた
片方は前方へ伸びている。いつのまにか現れた札には「未来」と書いてある
もう片方は後方へ。「過去」と書かれている
……これは……私に選択しろと?それとも演算の結果を見せてくれようとしているのですか?
もし演算なら、本当にゲシュタルトと似ていますね……それとも、私がゲシュタルトとしか理解できないだけでしょうか?
呆然とする中で、聞き覚えがないはずなのに妙な懐かしさを感じる声が、空間に響いた
「自分の決定を後悔しませんように」