Story Reader / 本編シナリオ / 16 永夜の胎動 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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16-10 降臨

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浄化塔の閉鎖ゲートがまた爆破された。煙の中へゴーグルをつけた構造体たちが突入し、銃を発射した。銃撃の炎で煙が吹き散らされ、ゲートにいるハンス小隊が見える

左側、類人、クリア

右側、可燃物、隔離完了

総司令閣下、エリア鎮圧は完了しました

一部の壁からショットガンの弾痕及び爆発でできた亀裂が確認できました。それらの痕跡の近くには類人と思われる残骸が確認されています

これは我が軍の構造体あるいはスカベンジャーが残した痕跡ではないな。記録してデータを確認せよ

承知しました

シーモン小隊の状況は?

現在、シーモンたちは塔内の全ての小隊と連携できる場所で防御中です

どの構造体でも逆元装置に過負荷の気配があれば彼はすぐリンクを開始し、指揮官を助けつつその構造体を安定させられます

彼の協力のお陰で現在塔内に侵入した構造体に侵蝕現象は見られません。全ての逆元装置の異常も発生次第すぐ解決されています

彼は、「ファイアーウォッチャー」という職責を上手く務めていますよ

うむ

ハンスは頷き、展開したエリアポイントを前方の部屋にセッティングした

これで、3つのエリアポイントも設置完了だ

3つのエリアポイントによれば目標の座標は現在、ハンス小隊からそう遠くない。前の探索結果で、塔内の全員が高度進化個体の異重合母体がその座標にいることを確信していた

ハンスは宇宙兵器の起動ボタンを握り、地面を見た。その視線はまるで浄化塔の厚い地面を見透かし、真下の空間を覗き見ようとしているかのようだ

地上の厳しい状況やプリア森林公園跡の脅威により、ハンスは今や強く認識していた。高度進化個体の異重合母体を、決してこのエリアから出してはならない

もし作戦終了までに、グレイレイヴンが異重合母体を撃破できなければサンプルの回収を諦め、すぐさまこのボタンを押さざるを得ない。宇宙兵器で敵の息の根を止めるのだ

ハンスは起動ボタンを軍服のポケットにしまい、部隊を率いて部屋を出た

ただグレイレイヴン小隊の戦闘を待つよりも、今は総司令として彼にしか成し遂げられない任務が待っている

グレイレイヴン小隊を率いて広い空間に入ると、中央にぶらさがっている異重合母体の姿が目に入った

実験品より更に巨大で、完成度が高い。端末からは絶えず警告アラームが鳴り響き、目の前のあれが今回の任務目標だと教えている。高度進化を遂げた異重合母体だ

無数の赤いへその緒は全て異重合母体と繋がり、何本かは枯れた植物のように異重合母体の上に垂れている。目前の物は「虫の群れ」の王、類人の外部刺激を処理するコアなのだ

指揮官、敵の逆元装置に対する影響がかなり激しくなっています

了解!

1歩前へ踏み出し、異重合母体に発砲した。しかし弾は異重合母体の硬い外殻に弾かれて金属音を響かせただけで、擦り傷すら残せない

しかしその発砲が沈黙していた異重合母体を刺激したのか、その体から呪いのような声が発せられた

だ……だめ……

傷つけては……ならない……

地下水路の母体と同じく、意味不明な言葉を発している。それは目の前のものが地下水路の異重合母体と何らかの関連があることをうかがわせた――昇格者による促進だ

次の瞬間、母体の触手が猛烈な勢いで襲いかかってきた

了解!

ルシアが前に立ち塞がり、赤い太刀を一瞬で抜きだし、襲い来る触手を断ち切った

彼女の後ろにある飛行装置から轟音が鳴っている。外骨格の中に温度制御システムがあるとはいえ、周りの温度が一気に下がったことがわかった

ルシアの飛行装置から冷たい風が吹き、異重合母体の動きが目に見えて鈍くなった

しかしそれも一瞬で、ルシアが異重合母体の外殻の隙間めがけて刀で刺し貫こうとした瞬間、母体から巨大なエネルギーが発せられ、ただちにルシアと距離をとった

距離をとったはずの異重合母体はいきなり空中で制止した。ピンク色の電磁壁にしっかりと固定されている

敵の牽制に成功しました

再び異重合母体へ向けて発砲した。今回は、発砲に動じなかった先ほどと違って、母体は弾が当たる寸前に体をひねった

最初の時と同様に弾は異重合母体の外殻に命中したが、横へと弾かれ、浄化塔の壁に弾痕を残した

――――!

指揮官、準備ができました

はい

指示を受けてリーは置いてある機械装置のボタンを押した

最初に発砲した時に、リーは隣にある機械装置へと近づいて修復を始めていた

他の隊員が異重合母体の注意を引き、機械を修復するリーのために時間を稼いでいたのだ

機械からブーンという動作音が鳴り、空気中のパニシング濃度がゆっくりと下がりだした

異重合母体の外殻は本来規則的に収縮していたが、濃度の低下により収縮の頻度が速くなったようだ

収縮する度にその外殻は大きな力を受けて、絶えず震えている

しかしその現象は自分が見知っているパニシング濃度が低下した際の母体の現象とは違う。異重合母体のこれまでの反応ではない

考えるより行動だ。グレイレイヴンの皆が作ってくれたこの好機は逃せない。再びトリガーに指をかけ、異重合母体の外殻ではなくその上の無数のへその緒を狙った

外界から信号を受け取る器官であるへその緒に弾が命中した――1本、また1本と断裂していく

やがてへその緒の切断面が白くなって枯れ始めた。切断面から噴き出す緋色の液体が異重合母体の体を伝って、地面へと滴っていく

滴る緋色の液体に、黒い液体が混ざっているのが見えた。あれは切れたへその緒から流れ出たものではなく、律動し、収縮する異重合母体の外殻から流れ出たものらしい

やめ……やめて……

ルシアは前に飛び上がり、流れる水のように異重合母体へ斬撃を繰り出した

刀の閃光に包まれた異重合母体は奇妙な態勢で地面で丸まっている。外殻は収縮と刀の斬撃のせいで震え、いまにも剥がれ落ちそうだ

それでも母体は重心を低くして、その体の下部をルシアの攻撃から守っている

グレイレイヴンは作戦を完璧に遂行した。異重合母体の栄養供給も、外界からの信号受信の手段も断ち、異重合母体を制圧した。後は母体を倒してサンプルを回収するだけだ

勝利の天秤は人類側に傾いている。しかしプリア森林公園跡に入ってからずっと感じている違和感をいまだにぬぐえないでいる

類人から外界の刺激信号を受け取る……

個体の必要量より遙かに多くのパニシングを養分に……

規則的な収縮と妙な液体……

自分の殻の下にある何かを守っているようなあの体勢……

異重合母体から、さまざまな違和感を感じる

?!

――その状況に気づいた時はすでに手遅れだった

異重合母体の体は残りのへその緒に引っ張られ、急速に空中に浮いた。途中でルシアの攻撃を受け、大きく傷つく

外殻は絶えず収縮し、内部を圧迫している。更に外殻の下にある赤い組織が突如、露わになった

その赤い組織からは黒い液体が滴り、痙攣も激しさを増している。だが今の異重合母体は自分が受けた傷の痛みなど気にしていないかのようだ

露わになった赤い組織は圧迫され、少し膨らんでいるように見えた。それにより、その赤い半透明の皮膜の下にある影がよりはっきりと見えた

どうやら推測の半分は当たっていたようだ

この空間にいる敵は最初から異重合母体1体だけではなかった。母体は何かを孕んでいたのだ

そう、生まれ出ずる「胎児」を――

――異合生物に胎児という概念が存在すればの話だが

やがてその赤い皮膜の一端を突き破り、噴き出す黒い液体とともに、2体の人間のようなものが一気に流れ出てきた

最後の液体が地面に落ち、その2体の人間らしきものも地面へと落ちてきた

出産のような行為を成し遂げた異重合母体は、後方のへその緒に引っ張られながらも体や触手は垂れ下がり、明らかに弱体化している

異重合母体

私の……私の子ども……

思わず全員が武器を握りしめた。その様子に圧倒され、呼吸するのも困難なほどだ

類人は赤潮が人間を飲み込んだ結果の人類の模造品だとすれば、目の前の男女はもはや模造品の域ではなく、精巧に作られた工芸品だった。これは完璧な、人類模造の完成品だ

彼らは虚ろな目でグレイレイヴンを見てきた。だが、見られていてもまったく視線を感じない

その視線は人の群れを突き抜け、人類という種族の群れを見つめていた

未確認人型生物:男

……Este no es nuestro final. (ここは我々の終わりではない)

未確認人型生物:女

安らかに眠れ、我が友

なぜか、その声には聞き覚えがある。まるでその声を発したのは目の前のふたりの男女ではなく、他の誰かであるかのように

ふたりの男女の言語は、他の類人のような拙いものではなかった。森林公園の無数の類人から知識を吸収したのは明らかだ

彼らは生まれてから数十秒で流暢に話した。だがその硬い表情を見るに、自分の意志ではなく、誰かの語を真似ただけで、言語により自分の思想を表している訳ではないようだ

この危機的状況では彼らが一体誰を真似ているのか、それを考える余裕はない

敵が手をかざすと奇妙な風の刃が自分の頬を瞬時に切り裂いた

この瞬間、異合生物はまた新たな高みへと進化した――