Story Reader / 本編シナリオ / 14 視線の虜囚 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

14-6 新たな厄災

>

カムイの最後の一撃により、温室に入り込んだ魚形の異合生物は全てが残骸と破片になり果てた

次はお前の番だぜ!

深部に向けて振るった大剣は、突然ある力に跳ね返された。深い闇から、背の高い姿が現れる。悠然と皆の前まで歩み寄るそのさまは、まるで敵を眼中に置いていないようだった

ガブリエル!

また空中庭園の虫けらか。どれだけ足掻いても無駄だ

ガブリエル、お前は資料では昇格者のリーダーたるルナの手下となっている。お前がここにいるということは、他の昇格者やルナもここにいるのか?

他の昇格者、だと?

ガブリエルは彼の発声モジュールから皮肉たっぷりに冷笑を響かせた

昇格ネットワークを裏切った臆病者たちのことか?それならば、とっくにここにいる資格を失っている

あのような者どもの行方は、私と微塵の関係もない

仲間がどこにいったか、気にしないのか?

仲間?臆病者と弱者に興味を払う必要性など認めん

私を導くことができるのは絶対的な力の持ち主と、力そのものだけなのだ

じゃ、なんでいつまでも拠点の近くにいるんだよ?

「あの方」のため

ガブリエルの声に再び、敬愛と恭順の色が溢れた

あの方は、その戦いのあとに私に新しい生命を与えてくださったのだ。力の真なる頂点も見せてくださった

あの方?

資料にあったな、それはあのロランのことか?

ロラン……

その名に思い至ると、ガブリエルの口ぶりがまた元の冷酷さを帯びた

私が言う「あの方」とは、もうひとりの代行者のことだ

ロランごとき、昇格ネットワークの裏切り者と同列に語るのは許されん

まさか……新しい代行者が現れたなんて……

貴様らの知りえる範囲はまったく狭隘だな。新しい代行者と耳にしただけで、そこまで愕然とするとはな

……ただ、面倒が増えたとウンザリしただけさ

そうか。では、もうひとつ、良い知らせをやろう

あの方を除き、貴様らが知る以外に、もうひとりの代行者がこの付近にいる

ここには3人の代行者がいると?

ふたりだ。すでに言っただろう、ルナ様の行方は不明だ。言っておくが、もう一回確認しようが答えは変わらん

そうまで好奇心があるのなら、自分たちの仲間に聞いてみたらどうだ。ここまで長い時間の追跡を行えば、彼らがより事情に通じていることは明らかだろうが

それは……空中庭園がずっと、ルナを追跡していると、そういう意味か?

もちろん。ルナ様が空中庭園の目と鼻の先で代行者になってから、人間が代行者を手中にする野望を捨てたことは一瞬たりともないはずだ

ガブリエルはマントからステッキを抜き出すと、一番前に立つクロムを指してきた

貴様らがそれについて何も知らないなら、これ以上の話は時間の無駄だ

あの方に累を及ぼす前に、私自ら貴様らを丁重に見送ってやる

アンタ、あの方ってのをかなり崇めてんだな

ガブリエルが一歩前に踏み出すと、そこにできた足跡から赤い電流が跳ね上がって、彼の冷たい機械の体に纏わりついた

然り。あの方は私を瀕死の窮地から救い出し、新しく真なる力をお与えくださった

では、あの方から授かったこの素晴らしい力を、見せてやろう

無数の赤い光がガブリエルの手のひらで凝縮した。その手にきらきらと輝く立方体を握っていたかと思うと、その瞬間に掌から強烈な光が弾けた

眩しい赤い光の中、ガブリエルは一瞬で眼前のストライクホークに突撃してきた!

全力防御ッ!

温室の周りの壁がこの激しい振動に無数の砂利を落とし、そこには煙や埃がもうもうと立ちこめていた

ストライクホーク3人による全力防御で、ガブリエル全力の一撃をなんとか受け止めたが、その戦闘力がすでに資料に記録されたものとは大きく違うのは明らかだった

先の発言を撤回しよう。貴様らは何も知らんが、あのグレイレイヴンと同じ、問題の起点となる邪魔な存在だ

グレイレイヴンのこと、よーく知ってる口ぶりじゃん?

ガブリエルはそれに返事をしなかった。赤い光が再び彼の掌に集まりつつある。しかし今度は立方体になる前に、カムイの大剣に粉砕された

カムイ!軽率に動くな!

隊長!だって——

全員で行くぞ!

あ、了解っ!

クロムが身を乗り出すと大鎌が円弧を描き、バンジは巧みにガブリエルを囲むふたりを飛び越え、上空からガブリエルの頭蓋骨を直撃した

赤い光が炸裂し、すぐ高濃度のパニシングが3人の逆元装置に侵入し、激痛が逆元装置をたどって襲ってきた。それはまるで骨格内に侵入した鋭い刃のように意識海の奥を掻き回す

距離を取れ!

カムイは大剣を後ろに振り、攻撃を防御しながら慣性を利用して自身の肉体を数m離れた場所まで引っ張った

クロムは大鎌を振り上げ、地表に落下していたバンジを引っかけると、カムイのいるところに投げつけた

ストライク!

飛んできたバンジを受け止め、カムイはクロムに親指を立ててみせる

……僕を先に下ろしてくれない?

温室の狭い空間はガブリエルの動きを制限した。彼は空への回避を封じられ、窮屈そうにステッキを振るい、合間にパニシングで3人を攻撃するしかないようだ

キーン!

クロムの正確な大鎌がガブリエルから自分に突き刺されたステッキを払い下げた。ガブリエルが全力で武器を引き戻す隙を狙い、素早く飛び上がったクロムが武器を振り下ろす

追い詰められたガブリエルが一歩後ろへと下がる。身を包むマントを引きはがすと、無数の赤い光がその躯体の周りに巻きつき、すぐ破裂する気配をみせた

ガブリエルさん、お母さんが……まだ休んでいるんです

お母さん?

赤い光は、少女の儚げな言葉のあとにたちまち消えていった。ガブリエルは武器を収め、遠くないところにいる3人を見下ろしている

確かに、このように狭い温室での戦闘は賢明ではないな

逃げるのかよ!

逃げる?違うな……あの方の計画に支障をきたしたくないだけだ

計画?一体、何の計画だよ?

ガブリエルはふんと鼻を鳴らした。詳細の説明は拒むといいたいようだ

貴様らもさぞあの方に会いたいだろう。私とここを離れれば、貴様らが死ぬ間際に謁見の場を作ってやらんこともないぞ

だが、貴様らが頑なにここに留まるというなら、私も最後まで付き合ってやろう

この言葉を言い終えると、ガブリエルはハイジを引き連れ温室の向こう側のドアを開け、入り口に立って3人を見つめた

よーし、後ろに隠れている卑怯なヤツ、一緒に引っ張り出してやろうぜ!

いや、これは罠かもしれん

でもここに残っても、戦闘を続ければいずれ土砂崩れを起こす。僕たちにもメリットはない

今撤退するのが得策かも

こちらが新しい代行者の情報を掴んだのに、あちらがやすやすとここを離脱させるはずがない。それにカムはここで起きたことをまだ知らない、彼を置いてはいけないだろう

ついて行きましょう。ついでにカムを待てばいいんですよ、隊長!

ちょっと待て。バンジ、ハイジが言っていた「お母さん」とは、何のことか心当たりがあるか?

バンジはしばらく考えていたが、落ち着いた口調でなかなか理解しづらい可能性について話し出した

字面の意味でいえば、母としての個体……あいつが言っていたもうひとりの代行者か、または侵蝕体か、それとも……新しい異合生物の可能性もある

クロムはまだ動けずにいるが、ここで「お母さん」の正体についての予想を証明できたとしても、小隊を挟み撃ちにされる危険が増すだけだろう

彼は後ろのふたりに頷いてみせると、ともに温室を離れるように合図した

ガブリエルとハイジの後について、3人は地下水路の開けたところまできた。目の前には昇降装置がある

下水道だらけのここに、なんで昇降装置なんかが?

僕たちは地下水路にある温室からたった今出てきた。今度は地下水路に昇降装置があったって、不思議でもないさ

おそらくこの水路は最初から、廃水を出すためだけに作られた訳じゃない

昇格者って普段ここに住んでんのかな?

ここは075号地下都市と繋がっている可能性がある。戦闘から避難するための軍事建造物なら、いろいろな機能があってもおかしくはない

ここまでの状況からいえば、ここはもうずいぶん前から廃棄されているようだ

クロムはカムイに声を低くするよう合図した。3人は歩みを少し遅らせて、先行するふたりと距離を取った

これはただの推論だが、ここは宇宙兵器から逃れるために一時的に開かれた廃棄通路かもしれない

廃棄されていたのは……建造物の質によるものだろうな

確かに。あと何回か地震があれば、この地下水路はきっと崩れてしまうな

なぜここだけ建築の構造が不安定なんだろう?

この都市に関しては、血清の開発技術がまだ完成されていない時代、侵蝕を駆逐及び隔離するために、一時的にここまでエリアを拡張したという記録があった

しかし、パニシングの拡散速度が予想以上に速かったため、人類はここを使う前に急いで撤退したようだ

話をしているうちに、ガブリエルとハイジの姿が曲がり角のところに消えていった。3人は足早についていこうとする

慌ただしい足音とともに、クロムのストライクホークの専用通信チャンネルからカムの呼び出しが聞こえた

カム

……お前ら……は……

ストライクホークの専用通信チャンネルは大半のものと比べて安定しているが、地下都市特有の信号遮断のせいで、カムの声もやはり途切れがちで、はっきりとは聞き取れない

こちらは地下水路の昇降装置のところだ、お前は今どこにいる?

カム

……迷宮……下に

今……昇降装置に……待て

了解。来るまで待つ

クロムが通信を切断した瞬間、曲がり角に消えたはずのハイジが空中に飛んでいるのが見えた

ハイジは片翼で不安定に浮かんでいたが、4匹の魚形の異合生物が彼女の服のバックルをしっかりとくわえると、彼女を引っ張って飛び上がった

あのふわふわ漂ってる帯、そういう使い道があるのか!隊長、俺も欲しい!

ここを出たら代わりに支給申請しておく。おそらく意味はないだろうが……

いや、そんなことを言っている場合ではないな。彼らにこのような逃げ道があるとは思わなかった

否、私は逃げなどしない

暫時ハイジには控えてもらおう。貴様らの引率は私だけで十分だ

こちらだ