上方に見えるマインドビーコンを目印に、ルシアは暗い意識海の深淵を必死に上昇し続けた
懐かしい記憶を乗り越え、受け入れがたい記憶を受け入れ、ルシアは分岐を越えて、意識海が融合する前に浮上した
……間に合った!融合は分岐点に届きませんでした!私の意識は無事です!
はっ、次はそううまくいくかしら?
ルシアが声を振り返ると、αが怒りに満ちた眼差しを向けていた
まさかリンクブリッジが……
αは憤怒のエネルギーを刀身に凝集させているが、その表情には珍しく疲労が陰をおとしていた
あなたも意識震盪の影響を受けたんですね?
あなたの意識が融合されない限り、私たちは一緒くたに縛りつけられているようなものよ
あの時の声……やはりあなたの声だったんでしょう!
……何を聞いたの?
いえ、今から死ぬ者に訊ねるだけ無駄ね
十分なエネルギーが充填された刀を、αは渾身の力で振り下ろした
だが、刀の金属音が響く度にαの炎は制圧されていく。再びエネルギーを集めようとしても、炎はαの身体で燃えるだけで、攻撃に転嫁できない
そんな……!?
α、後悔を乗り越えられずにいるのはあなたの方です
……私に迷いなんてない。何を後悔することがあるというの?
あなたはただ、後悔を憎しみへと変えただけ
憎しみに囚われた者に、未来は訪れない。今のあなたでは……私の攻撃を防げない!
ルシアの刀が凄まじい光を集める。αを見据えるルシアの眼差しには一片の迷いもない
いいわ……意識海のリンクで牽制しようというのなら、こちらにも考えがある!!
させません!!!
冷気を凝集させた一撃に雪の花が舞い散る。だがαはかわすことも受け身をとることもなく、距離を一気に詰めてルシアに抱きついた
刀はαの体を貫通した。意識海で受けた外傷が現実世界の身体に影響することはないが、精神は大ダメージを受けたはずだ
どういうつもり!?
αは答える代わりに、ルシアの腰と首に手を掛けたまま意識海の分岐点から飛び降りた
α!?また深層へ潜ろうというんですか!?
あなたの希望には何の救いもない!真実の海で溺死しなさい!
αの凄まじい憎しみに呼応した意識海が強烈な轟音を鳴らし、崩落の欠片がふたりに降り注いだ
私は過去から逃げたいわけじゃない!裏切られた事実を受け入れたからこそ、変えたいと思ってるんです!!
あなたもそれを変えるために、昇格者になったんでしょう!?
ふたりはもつれ合いながら、意識海の深層へと堕ちていく――